住めば都

気が向いたら、好きな俳優、観劇記録や日常ごとを独断と偏見に満ちた表現で書き散らかしています。思考が合わないかたはごめんなさい。

砧 華諷会〜馬野正基能の会〜@喜多六平太記念能楽堂

初めてではないはずですが、久しぶりすぎて初めての能と同じでした…。

馬野正基の会

能楽の有名な演目はいろいろなものに移されていて、文楽でも安宅、紅葉狩、道明寺などあげるときりがありません。

さそってくれた友人によると、重い演目(長いし初めてだと難解?)だそーな、砧です。自分なりに調べたところによると、能楽は基本亡くなっている人が大事なところで出てくるつくり。能楽の成り立ちが亡くなった人を弔うため、もあるらしいです。狂言は生きているひとの日常生活にふと訪れる、おかしみの普遍的な表現だと思います。

簡単に砧のあらすじ私の目線で。

訴訟のために都へと上った九州の芦屋某。某は妻を思って侍女夕霧を遣わすも、奥方は夫に会えない切なさがつのるばかり。奥方は彼を待ち続け、砧を打つことで遠く離れた夫に気持ちが伝わることを願うが、やはり帰れないとの知らせを受け取る。嘆き悲しんだ奥方は病を得、ついになくなってしまう。急ぎ某は帰郷するが、亡霊となった奥方と対面することに。。

 

長い演目で、始まりは確かに眠くて視界がゆらゆらしていました。申し訳ないですが、地謡の皆さんの詞章ははっきりわかりません。文楽のように床本ならぬ謡本をもっていないしね、文楽のように配られないし。配ってほしいわけではないの。持参なさっておいでの方々をお見かけしました。私は聴き取れる範囲で。大鼓、小鼓、規則的に、笛の音が高低自在に音楽を奏でます。

あと、国立能楽堂での能ならともかく、個人の会というのかしら、に1人で行くのは勇気がいります。多少伝統芸能に接している私でも、私的な会にいきなり行こうとはなかなか思えないです。内輪での感じがとてもしますし、実際そうでした。今回友人が能楽が好きな人で、あれこれご存知だから安心してご一緒しました。

予習としては、成田美名子さんのこの漫画と、演目をあらすじを読んだくらいです。

 

花よりも花の如く 13 (花とゆめCOMICS)

花よりも花の如く 13 (花とゆめCOMICS)

 

 

「間」(場が変わる箇所?)に野村万作さんが出てきて、簡単に前半の説明をなさるのですが、台詞長くておどろく!いわゆる休憩ではなく、奥ではシテ(メインのひと)が違う衣装にお着替え中で、奥方が亡くなり霊になって出てくるまでの場面展開の時間がほしいわけです。二次元のものを三次元に組み立て演出するときに、出入りの時間、場面転換や着替えの時間など、考慮しなければいけない具体的な手順が多いですよね。SHOCKで聞いた話だと、ドアを開けるひとも決めておかないといけない…。能楽の場合は、できるだけシテやツレの出入りは控えて(わざとかはわからないので、聞いてみます)、舞台上でやることが多く、後見の皆さんがそれらのお世話をなさる印象でした。

奥方が幽霊となって出てくると、装束も上が地紋がある白、下が薄いエメラルドグリーンの袴の着付けです。能楽の装束は、袴が変わっていますよね。究極にぺったんこといいますか、ふくらみを排している。

上は逆にどれくらい中に着込んでいるのかしらのふくらみ具合。上と下の長さがちょうど1:1のように着付けていますから、胴長短足の日本人にはぴったり〜。あ、某の従者はふつうに素袍だったと思うのよね。某もそうだと思うけれど、ささっと私の死角に座ってしまったのであいまい。

 奥方の幽霊が出てきてから、俄然覚醒しましたよ。舞台に緊張感がみなぎるのもありますが、初心者の私でさえそうなのですから、お詳しいひとは幽玄の世界にあそぶ、のでしょうね…。

奥方が、夫のほうにささっと進み出て、あっと後ずさりするところが、きゅんとしましたよ…。さめざめと泣いているし(泣いている顔の角度だとお面をつけていることもあり、きちんと女性に見えるのですよ…)、旦那さんひどいと思うの!亡くなってから帰ってきても遅い!

あと、友人の観能時の座席の取り方が素敵で観やすかったのです。舞台正面のゾーンの少し右手(通常の舞台だと上手)よりだと、橋懸かりから演者が出てくるところなどすべて、顔を動かさず舞台全体を見通せるので、ストレスフリーなんですよ。文楽でいうと床下のほうですね。地謡のかたたちのお顔はさっぱりわかりませんがね…。

というわけで、能楽の動きも知ってはいましたが惚れ惚れしましたね、これが日本人が何百年も掛けて獲得したオリジナリティだなぁと。すり足で、出っ尻気味で下半身に力が溜まっているように感じるのに、きれいに平行移動してすっと回転する。いわゆるバレエやジャズダンスでの回転を見慣れている身としては、能楽の回転は、時間軸が変わるくらいの変化を感じましたね。ほかがゆったりしているから。今回素早く動くことがほぼない演目だったというのもありますが、すささっと動くとびくっとするという有様…。

お話は憤慨しつつ、動きの隙のなさ、おおらかさにすっかり魅了された時間でした。

ありがとう!また誘ってもらおう。