キアズマ 感想
ふと書店や図書館で棚を眺めてみると、今まで知らなかった世界を取り扱った小説がたくさん出ています。以前から好きな三浦しをんさんでも、大学駅伝の話や、辞書編纂の話があります。今回読んだ本も無理に分けると、「自転車ロードレース小説」とでもいうのでしょうか。2008年に第10回大藪春彦賞を受賞した「サクリファイス」は、前職の先輩から勧められて読みました。
「サクリファイス」これが、実はハードボイルド小説なんです。死ぬの生きるのなんです!
脚注に示したように、キアズマという意味はなんだかよくわからないのですが、「サクリファイス」シリーズの4作目にあたります。
自転車と一口に言っても部品の材質や形状が違うだけで、重さも相当変わり乗り心地が全く違うそうです。普段ママチャリにしか乗っていないので、こちらは実感しづらいですけれど。
スポーツとして公道を走る自転車は、かくもドラマを抱えているのか、と近藤史恵さんの過不足なく簡潔な心理描写に重きを置いた文章に、すんなり引き込まれます。
主人公岸田正樹は、とある大学の新入生。自転車部の先輩に怪我を負わせてしまった償いを兼ねて自転車部に入部します。柔道経験があり、基礎体力十分の岸田は、はじめはロードバイクという今まで感じたことのない乗り心地の乗り物に魅せられ、走る楽しさを追求します。同じ自転車部の先輩櫻井のとらえどころのない魅力と、実力をつけ、レースに出場するたびに自転車に惹かれ自転車を怖れる岸田の、ぬぐい去れない過去も次第に明らかになります。
自転車のパーツの名前も知らない、ましてやレースに参加したことのない読者を、置いてきぼりにしない筆力が素晴らしいです。通勤時間に読んでいましたが、駅に着くのが残念と思う本は久しぶりでした。そして読み終わるのも残念なのです。
ただ、この終わりかただと近い将来に続きが読めそうで楽しみです。