「ロスト・イン・ヨンカーズ」 パルコ劇場
三谷幸喜さん演出ニール・サイモンのお芝居。1942年ニューヨーク州のヨンカーズを舞台に繰り広げられる三世代にわたる物語。コメディって最終的にはココロが暖まるものだと勝手に思い込んでいましたが、そう、こんなにひりひりさせられるものでもあったのです。
2002年にパルコ劇場で同じニール・サイモンの「おかしな二人」(男編)を観ました。これも台風の時期でした。ちょっと話が逸れますが、高橋克実さんを舞台で初めて観たのがこの作品でした。男編と女編とメインの役柄の性別を変えた二つのパターンを上演し、どちらにも共通で出演する人々4名を配する趣向で、そのうちのお一人。これも、普通の人を描いているのですが状況状況が面白かった印象。
泣き笑いとひと言でいいますが、今回初めてそれを体験しました。
中谷美紀さん演じる少々アタマが足りないと思われる節がある娘ベラ、草笛光子さん演じるドイツ系移民の母の関係性を、ベラの甥の兄弟二人(浅利陽介、入江甚儀)の主な目線で描いていきます。
松岡昌宏さんは外身はぱりっと格好よく、でも胡散臭い雰囲気を漂わせるベラの兄ルイ、兄弟の父でベラとルイの兄エディに小林隆さん、ベラの姉娘に長野里美さん。
エディが借金返済資金を出稼ぎするために、兄弟二人が祖母の家に預けられるところから始まります。この家はベラと祖母の二人暮らし。時代設定が太平洋戦争下です。科白の応酬の中で、彼らが置かれている状況、性別と年代のギャップ等、つい声を出して笑ってしまう場面が多いです。
それがベラが少々アタマが足りないひととして表現されている故に、こちら側は徐々に真綿で首を絞められるような印象を持ち、ベラのくどき*1 の場面で一気に家族への愛憎が爆発します。
主軸として、どこにでもある母と娘の話です。こちらは観ている側なのに、薄笑いのひとに、傷をえぐられるような気持ちを抱きました。最近アメリカ人の劇作家の観劇が続いていますが、普遍的な家族の物語でした。
中谷美紀さんは、初舞台の「猟銃」観ましたが、底知れないひとです。こういうふうにやってくださいと演出家に言われれば、さらっとやってくれるような印象。不自然ではなく演じていることをこちらに意識させつつ、きちんとその世界へ導いてくれる。ベラが結婚したい男性ができ、結婚出産願望を母親に訴える場面、その後の場面でそのひとと結婚できないことがわかったときは、やりきれなくなりました。
松岡昌宏さんは、役柄もありますがとても動きがきれいで舞台向き。きちんと照れずに大人を演じることができるひとだと思います。堅気ではないけれど、家族への愛情溢れる様子がにじみ出ていました。
草笛光子さんは、舞台2度目です。前回「請願」*2は老夫婦の抱える問題での妻役。今回は厳格な祖母、母役。6人の子どものうち2人を若くして亡くしています。ゆったりとした語り口のなかに、埋めようもない寂しさと孤独を抱えた人物がこちらにはちらちらと見えて、せつないくらいでした。
明日は佐藤オリエさん、満島ひかりさんで「秋のソナタ」という母と娘の話を観にいきますので家族の話が続きますね。